Progressive Maria 進行形のマリア

2012年4月13日(金)~4月23日(月)※休館日:4月18日(水)
開館時間:12:00~19:00 
※日曜日、祝日、最終日は18:00まで
 
苦い海、海の星、照らすものを意味する聖なる名マリア。マリアの概念は恩寵に満ちた海であり、その受難により苦く、人々の長い航行を導く一つの星であるというものでした。現代芸術の歴史の中で、生の配分者であり根絶者という女神神話は、時代に対応したことばで語り直され、創造と破壊の象徴であるそれ自身を反復するかのように、作家達によって新しい世界の表出が企てられてきました。
 
例えば1923年に未完のまま放棄された、マルセル・デュシャンによる通称「大ガラス」、「彼女の独身者によって裸にされた花嫁、さえも」は、聖処女被昇天の寓話であるとも解釈される一方、そのレディメイドの作品群にも脈打つアイロニーの運動の、最も高い地点における表現であったと理解されています。概念(concept)にはそもそも、マリアの懐妊のように、受胎され、孕まれたもの(conceptus)という意味があります。
 
今回歴史的建造物である早稲田スコットホールギャラリーで開催される展覧会とホールでのイベントは、複数のアーティストがそれぞれに概念を孕み、交差しながら新しい意味を創出する機会となります。現在の日本に生きるアーティストの現実の中から生まれてくる表現は、イメージ、形態、音、語り、踊りを通して形成される、特異なダイアグラムとなることでしょう。

沖啓介


Keisuke oki
 
沖啓介
アーティスト/デザイナー/ミュージシャン
 
コンセプチュアルなインスタレーション作品、映像作品を多摩美の学生時代から始め、当時より国内外で発表する。80年代にニューヨークに滞在した後に帰国し、90年代からエレクトロニクス技術を使った作品を制作する。その後カーネギーメロン大学の研究員となり、国際会議で研究、論文発表、講演も行っている。音楽は、ロックでは少年時代からキーボードを担当し、90年代以降のエレクトロニクス音楽ではさまざまなシンセサイザーを使用。ほかに伝統音楽では、三千年もの歴史を持つ中国楽器の古琴を演奏する。アートも音楽も、古代も未来も、デジタルも非デジタルも、全てを超越して、現在はポストデジタルの表現に向かっている。
 
今回は早稲田スコットホールで、マルセル・デュシャンの「Anemic Cinema」(6分)とマン・レイの「L'Etoile de Mer」(15分)を上映しながら、ピアノ演奏を行う。
 

アズビーブラウン


Azby Brown
 
アズビー・ブラウン
アーティスト/デザイナー/ライター/金沢工業大学未来デザイン研究科所長
 
1985年より東京在住。イエール大学にて彫刻と建築を学び、1980年卒業。1988年に東京大学大学院工学部建築学修士課程を修了。その活動分野はアート、建築、サスティナビィリティ、神経科学と広範囲にわたっている。
 
今回ギャラリーには、自らが「クリエイション」と呼ぶ写真のシリーズが展示される。それらは世界の「再生」の終わりなき過程の片鱗として、あたかも隠された現実が立ち現れかるかような場所と瞬間を捉えたものである。作家は昨年3月11以降、自分がこのような場所を観察していることに気がついた。
また数年に渡り、音声の入力によって制御されるビデオを制作してきた。今回ホールで発表する新作も同様の手法を用いながら、白井美穂、中川敏光と共演するライブパフォーマンスに用いられる。テキストが読み上げられ、それによって投射されたビデオは変更されて行き、サンプリングされた声は新たな音響と楽曲を生み出して行く。

白井美穂


Mio Shirai
 
白井美穂
アーティスト
 
1988年東京芸術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。1993年アジア交流基金日米芸術家交換プログラムにより渡米、以降2006年までニューヨーク在住。現在東京在住。立体作品、絵画、映像、インスタレーションを作る。インド・トリエンナーレ、プラハ市立美術館、越後妻有アートトリエンナーレ、「アーティスト・ファイル2008」国立新美術館(東京)、ノーザーン・ギャラリー・フォー・コンテンポラリーアート(イギリス)等で発表。近年は「City Beats+Live Explosions」(横浜)などライブ・アートと展示による展覧会企画も行い、それらの活動も含めた、コンセプチュアル・アートの進行形を探る。
 
ギャラリーでは、写真に写った対象が既にそこに存在しないものであるということや、像として現れているものの真偽についてなど、写真表現自体を対象化した90年代初頭の作品を、近作と共に展示する。

中川敏光


Toshimitsu Nakagawa
 
中川敏光
美術家/電子音楽家
 
1996年 多摩美術大学絵画科油画専攻卒業。大学在学時より音響芸術作品を発表、後にコンピューターでの音楽制作や騒音音楽のパフォーマンス活動を本格開始。近年では、2009年 代官山インスタレーション関連企画 "Hair prayer flame"(代官山)、TWS Experimental Sound Art and Performance Festival 2009 (渋谷)、2010年 Exhibition "City Beats +Live Explosions"(横浜)、2011年 BankART LifeⅢ 新・港村 多田正美+鈴木理策 "西浦の田楽"(横浜)やexplosion tokyo viewing room(西麻布)、BlanClass(横浜)などで不定期公演。
 
今回は、環境音を使って現代に至る自分自身の人格形成に影響を与えたと感じるエレメントを音に関連付け、その音を即興的に再構成することによって2012年を抽象表現する。

表現


Hyogen
 
表現(Hyogen)
権頭真由(Acc/Vo)、佐藤公哉(Vn/Vo)、古川麦(Gt/Vo)、園田空也(Ba/Vo)
 
様々な地域、時代の音楽を身体に落とし込み、深い欲求に従ったプリミティヴなポップミュージックを模索するバンド。
2005年発足。2009年より現在のアコースティック編成での活動を始める。
「夢見のワーク」とも言うべき即興的なリハーサルから音をつむぎ、ホールやライブハウスはもとより、美術館や教会、古書店などでユニークな演奏活動を行っている。白石かずこ(詩人)、酒井幸菜(ダンサー)、羽鳥智裕(華道家)、霜村佳広(舞踏家)、地下空港(劇団)、白石由子(美術家)などと作品を共作/共演し、2011年には白石由子氏のオーガナイズによるロンドン公演を行い好評を得る。現在までに「hyogen」「旅人たちの祝日」の2枚のアルバムを発表している。
 

西原尚


Nao Nishihara
 
西原 尚
アーティスト
 
1976年広島生まれ。京都、山口県宇部育ち。1988年東京外大中退。2009年 東京芸大音楽環境創造科卒業。2011年東京芸大修士課程先端芸術表現専攻修了。2011年にはexplosion tokyo(西麻布)や「新・港村」(横浜)にて展示。音の研究、音の美術、音の記録研究、踊りの音、楽器制作などの活動を通じてできるだけ多くの音を体験すべく努力している。『サウンドアート』(フィルムアート社 /2010)を木幡和枝、荏開津広と共訳。
 
今回の屋外展示は、早稲田スコットホールやギャラリーに囲まれた中庭に音を配置する。空間への意識を広げ、さらにこうした自己認識は、他者の認識へと広げられる。そして「無限」といった意識へも広がる可能性を持っている。
ギャラリー内には、これまでも制作を続けている「警鐘」の4つ目を展示する。「日常の営みの大切さを強く意識しつつも、常に観察と決断を繰り返し、行動的に緊張しながら生きてゆく」ための警鐘。

高松太一郎


Taichiro Takamatsu
 
高松太一郎
アーティスト/ファッションデザイナー
 
福岡県博多生まれ。国立鹿屋体育大学中退後、東京造形大学美術学部絵画専攻に入学、イタリア〜バルセロナ間自転車単独旅行。在学中より国内外にて、パフォーマンスやインスタレーションを発表。現在、オートクチュールのアトリエでアシスタントとして勤務しながら自身のレーベルにて活動中。東京洋服組合会員。2012年3月より、10年プランの「こいのぼりプロジェクト」をウィーンでスタート。
 
ホールで行うパフォーマンスについてのコメント
3歳の時、二度の事故に遭った。一度目は記憶を失い、二度目は顎骨粉砕と8本の抜歯。死は目前にあったけど、僕は生きる事を選んだ。神の存在を心の中に認めたことはないけど、刹那的に移り変わる何かが僕を生かしている。目の前に広がる風景とか、まだ見ぬ友達に出会うこととか。13の時分に僕を救ってくれた紅いドレスの少女は、いまもどこかで誰かの心の中に生きているのかもしれない。

後藤天


Ten Goto
 
後藤 天
アーティスト
 
1983年東京生まれ。多摩美術大学映像演劇学科卒業。現在情報科学芸術大学院大学スタジオ2(アートメディア領域)在籍。explosion tokyo 運営メンバー。
実験映画、プロジェクト・アートを経て、現在は、音を伴ったパフォーマンスを制作。
 
ホールで行うパフォーマンスについてのコメント
「コンピュータ時代における日本語のようなものによるパフォーマンス」
近年、インターネットをはじめとする情報技術が私たちの環境を大きく変えています。特に、私たちの言葉はずいぶんと影響を受けているのではないでしょうか?PCに登録されていない漢字は忘れ、携帯電話の予測したとおりに文章をつくり…。だとすれば、コンピュータによって変えられたかもしれない、別の日本語の存在を想像することができるのではないでしょうか?そういった実際には存在しない「日本語のようなもの」によるパフォーマンス。

足立真悠


Mayu Adachi
 
足立真悠
アーティスト
 
1987年東京に生まれる。2006年東京藝術大学先端芸術表現科入学。2012年同大学卒業。
 
作品タイトル:「美術の時間」 素材:イーゼル 木製パネル 写真
作品のコメント:物を見て絵を描くという行為には、基礎技能の向上だとかいった名目的な印象がつきまといがちです。そこでは、自分自身と、自分の中で像を成したある高次の存在との対峙があまりにも無自覚のうちに行われてしまうように思います。目に映るものは移ろいやすく、写真はその表面を時間と光とをもって記録しておく装置にほかなりません。見ること、そしてそれを描きだすこと。それは本来イコンを媒介に神を崇拝する人々の敬虔な祈りと袂を同じくする、あるダイナミズムをもった深遠な行為のように思えてならないのです。

渡邉ひろ子


Hiroko Watanabe
 
渡邉ひろ子
アーティスト
 
1988年 新潟県生まれ。2011年 女子美術大学絵画学科洋画専攻卒業。現在女子美術大学大学院美術研究科美術専攻洋画研究領域在籍。主なグループ展に2008年「Intuition」/key gallery・東京、2009年「女子美スタイル☆最前線2009」選抜 /BankArt studio NYK・横浜、「五美術大学交流展」/武蔵野美術大学・東京、2011年「東京五美術大学連合卒業・修了制作展」/国立新美術館・東京、2012 年「Coil.3th展」/ギャラリー青羅・東京。 他に2011年9月〜  explosion tokyoにて映像作品「氷を溶かす」を放映。
 
<氷を溶かす> 2010 Performance 60min
 氷の塊は身体の熱を奪っていくものとして、絶対的な「他者」であった。わたしと"対"になるその存在には、皮膚一枚で隔てられた境界、またそれ以上の越えられない境界線がある。
 その距離感を認識しつつ、対峙する「他者」や「外の世界」に対して歩み寄ろうとする行為。その中に「自己」や「他者」の未だ見えていない風景が現れてくるのかもしれない。
<still life> 2012 Video Installation 30min
 言葉は私たちの認識世界、また認識以前の世界へ自由に横断する可能性を指し示してくれる。映画や小説などから抜粋された断片的な言葉は、前後の会話や文章の関係から解放され特定の意味を持たない自立した存在となる。そしてその言葉を受け取る人の記憶やイメージなどの主観によって形を変えどこまでも拡張していく。
その拡張された世界へ私の身体も同化していくような、言葉と私の境界をなくしていくような想像世界の可能性を開いてみたい。

大西茜


Akane Oshima
 
大島 茜
アーティスト
 
1990年 東京生まれ。2012年 阿佐ヶ谷美術専門学校イメージクリエイション科卒業。
 
作品タイトル:「PartyⅡ」 素材:パネルに画用紙、アクリル絵具
作品のコメント:イメージの記憶と、現実で感じていることには差異がある。
魅力や嫌悪、攻撃や愛しさ… 両極端のものが自分の中で同時に内在している。

江畑加奈子


Kanako Ebata
 
江畑加奈子
アーティスト
 
1990年東京出身。2012年阿佐ヶ谷美術専門学校イメージクリエイション科卒業。
 
作品タイトル:Wet 素材:グラス、樹脂、木材
作品のコメント:透明なものはそこにあるのに、向こう側が透けて見えます。同じ透明なものでも、消えてしまうものとそうでないものを見る事ができるのは、日常的なサイクルの中でも僅かな時間です。

立川希緒美


Kiomi Tachikawa
 
立川希緒美
アーティスト
 
1991年3月29日生まれ。東京都出身。阿佐ヶ谷美術専門学校卒業。
 
作品タイトル「ピンクのガーベラ」 素材:キャンバスにアクリルガッシュ 作品のコメント:花を観賞する目的ではなく別の見方をしたとき、どのように見えるのか。

南雲由子


Yuko Nagumo
 
南雲由子
 
1983年生。山野美容芸術短期大学にて美容師国家資格取得後、2008年東京芸術大学先端芸術表現科卒。2012年東京大学大学院文化資源学研究室卒。2011<新・港村>、2009<大地の芸術祭越後妻有トリエンナーレ>、2007<大阪・アート・カレイドスコープ>出展。
アーティスト・ランtime spot代表。
2012.4高円寺に美容室'become works!! koenji'オープン。